少し古びたカフェでアルバイトをしている私。
30年近く同じ場所でカフェを営んでいるだけあって、
古くからのファンの方も少なくありません。
私がこのカフェでバイトを始めたのは、5年以上も前の話。
でも私が働く前から通って頂いてる、
60歳くらいのおばあちゃんがいました。
その人は、決まってオムライスとコーヒーを注文します。
そしてオムライスは食べるけど、コーヒーは飲まずにいつもお会計に向かう。
そんな光景をずっと見ていて、少し疑問に思いながらも、
毎回コーヒーをお出ししていました。
いつもと同じ様にオムライスとコーヒーを注文するおばあちゃん。
ふと聞きたくなってしまって、
「コーヒーはお飲みになられないんですか?」
とおばあちゃんに質問をしました。
すると、おあばちゃんがニコっと笑って、
飲まないコーヒーを注文する理由を話してくれたのです。
「このカフェは、夫とずっと一緒に通ってたカフェなんです」
「私はここのオムライスが、夫はここのコーヒーがとにかく大好きで」
自分が働くカフェのメニューを長年好きでいてくれたという話に、
幸せな気持ちになる私。
「そうだったんですね」と笑顔で頷くと、
「でも私はコーヒーが飲めなくて、
いつも美味しそうに飲む夫がずっと不思議だった」
と言います。
笑顔で話してくれるおばあちゃん。
何とも微笑ましい話だなと思っていたのですが、
そこで急に違和感が。
コーヒーが飲めないのに、なんでコーヒーを注文するんだろう?
そんな事を思っている私に気付いたのか、
おばあちゃんが話を続けます。
「夫は8年前に交通事故で亡くなってしまったの」
「仲良しだったから、すごく辛かったんだけどねぇ・・・」
笑顔なんだけど、何とも寂しそうな表情をするおばあちゃん。
言葉が見つからず、
「そうだったんですか・・・」と言い、私も黙ってしまいます。
でも、おばあちゃんはニコっとして、私に話を続けてくれました。
「それでも、ここのコーヒーの匂いを嗅ぐと、
夫と来ていたときの事を思い出せて、幸せいっぱいになるの」
「コーヒーは飲めないけど、この香りはすごく大好き」
「だから、いつも注文させて頂いてるんです」
いつもニコニコとしながら美味しそうにオムライスを食べるおばあちゃん。
飲めないコーヒーを注文するのは、
大好きな旦那様を近くに感じたいからなんだ。
そんな事を思いながら、「大好きだったんですね、旦那様のこと」と聞くと、
とびきりの笑顔で、
「今もこれからもずっと大好きですよ」
と言ってくれました。



